アアルト建築をめぐる日 その2 [FINLAND TRIP DAY8.5]

1952年に完成したアアルトの代表建築セイナッツァロの村役場。見学するのに特に予約は必要ないけれど、時期によって開いている曜日や時間が違うようなので注意が必要です。この夏の間はオープンが12時でしたが、図書館から中庭に出た時はまだ開館前だったので、少し待ってから扉の前にいた人たちと共に中へ。

エントランスの大きな窓の外側は緑のカーテンで埋め尽くされているので、外はすごく良い天気で写真も白飛びしてしまうくらいの日差しだったけれど、ここは冷んやりしていて日陰にいるようでした。窓の反対側の小さなショップで入館チケットとレジ横にあった「Alvar Aalto - muotoja ja tarinoita(アルヴァ・アアルト デザインと物語)という本も一緒に購入したら、スタッフさんが奥の部屋でビデオも見れると教えてくれたので、まずはビデオを見てから建物内を見学しました。一通り見て周りエントランスに戻ってきたら、チケットを買った時のスタッフさんが12時半から英語のガイドがあるよ〜と。英語かあと思いながらもせっかくなので参加することに。

ツアーガイドの内容は案の定大半がわからなかったけれど、役場内に宿泊施設があるという衝撃の事実をここで知りました。 調べてみたらお部屋もすごく素敵だったので、泊まってみたかった…。


見学を終えた後は1階のベーカリーカフェへ。アルテックのホワイトラミネート天板の円卓が並んでいて、どのテーブルにもお花が飾られていています。フィンランドで見る花の飾り方はキュートでカラフルで自由な感じが多い。こんな風に気軽に花を飾りたいんだけど、なかなか難しいんですよねえ。さて、ここのカフェも自分でオーダーをしに行くフィンランドでよく見るスタイルなので、まずはレジカウンターへ。サンドウィッチやケーキなど色々あったけど、この旅ではプッラを食べまくる!と決めていたので、ヴォイシルマプッラとコーヒーを注文しました。奥のキッチンで焼いているのか、カウンターの後ろの棚には色々な種類のパンがずらり。ヴォイシルマプッラもすごく美味しくて、シナモンロールも気になったので一つテイクアウトすることに。

カフェを出たあと、そういえばガイドツアーで役場の外観を撮影する時のベストポジションを教えてもらったっけ、と思い出し、役場の外をぐるっと見て周り、おすすめアングルで写真を撮ってから、再び自転車に乗り次の目的地へ向かいました。

セイナッツァロもムーラッツァロも湖に浮かぶ島なので、移動の時の景色が本当に最高。あまりの美しさに時々自転車を止めてしばらく見入ってしまうくらい、フィンランドの森と湖は美しいです。ユバスキュラのアアルト建築を見て周る時の交通手段はバスが一般的だと思うけど、それだとこの感動は味わえなかっただろうから、このプランは我ながら大正解でした。

小さいながらもレストランやお店がチラホラあったセイナッツァロに対して、ムーラッツァロは完全に住宅街といった感じ。グーグルマップで確認しながら自転車を走らせていたけれど、通り過ぎてしまったくらい分かりにくい場所にありました。看板もすごく小さい。そして、ツアーガイドを予約した時には気がつかなかったのですが、昼はフィンランド語のツアーだったらしい。英語版のサイトを見ていたから英語のツアーしか出てこなかった模様。フィンランド語での説明の方がまだ理解できた気がするので、もし私みたいな方がいたら、サイトの言語をフィンランド語に切り替えてから予約することをお勧めします。そんなこんなで続々と人が集まってきて、ガイドスタッフの人が名前を確認して全員で敷地内へ。

看板がある場所から建物は全く見えず、目の前にあるのは完全に森。ガイドさんが開けてくれた小さな門を通って、森の中の小道をずんずん歩いて行くと、アアルトの夏の家とも言われる「コエ・タロ」がポツンと建っています。第一印象は思ったより小さい家なんだな、でした。

白い外壁に沿って歩き、建物の反対側に回って行く途中で、最初に持った「意外と小さい」という印象は完全に覆されました。そう、最初に見えていたのは木造のゲスト棟で、学生時代に教科書の写真で見たあの煉瓦造りの建物は、湖側にある母屋だったのです。高い壁で囲まれた中庭から目の前に聳え立つコエ・タロの外観を見上げて呆気に取られている間も、ツアーガイドのスタッフさんは色々説明をしてくれていて、その中からこの壁には20種類ほどのタイルが使われているというような話が聞こえてきました。確かに場所によって使われている煉瓦が違う。外壁でこんなことをするなんて面白いなあ。

大きな窓の横にある扉から中に入ると、そこはリビングとダイニングスペース。テーブルにはエリッサ・アアルトのH55がテーブルクロスとしてかけてあり、その周りにはソファベンチとラタン製のチェアが3つ並んでいます。その背面には作り付けの食器棚があって、向かって左側には格子状の戸が付いているのですが、取手の位置がちょっと変。正面側ではなく側面に付けられているんです。手前に引くと開くタイプだと思うのですが、なぜここに…?何か意味があるのか、アアルトの遊び心なのか。

ダイニングにある暖炉横から細い廊下を進んでいくと、台所と個室がいくつかあります。どの部屋も割とこじんまりしていて、ベッドもコンパクト。割と体格が良い人が多いフィンランド人がこのサイズで寝れたのか?と疑問に思ったくらいです。

室内を一通り見た後は、外にあるサウナ小屋へ。中庭から森へ出て小さな橋を渡ると、丸太でできた小さな建物が見えてきます。ちなみにスモークサウナらしい。

外も中もたっぷり見学していたら、もう時刻は16時すぎ。フィンランドの夏はいつまでも明るいから時間感覚が狂ってしまいます。結局ちゃんとした昼ごはんを食べられなかったので、お腹はペコペコだし、沢山の建築を見てクタクタ。ここからまたムーラメに帰るためには一旦休憩を挟まないと、ということで、良い場所がないか探しながら自転車を走らせます。しばらくすると、湖のほとりに小さなベンチを発見。そこに座ってしばしの休むことにしました。セイナッツァロのカフェで買ったシナモンロールを頬張りながら景色を眺めていたら、犬と一緒に泳ぎに来た人なんかもいて、なんだかすごくいい雰囲気。日本にいると、こんなにボーッと何もしない時間が何故かあまり持てないんですよね。

エナジーチャージも完了し、再び自転車に乗りこんで、セイナッツァロを経由しムーラメに戻ります。この日は暑くもなく寒くもなく、本当に自転車日和の一日。フィンランドに来た最初の数日は天気が悪かったのですが、それ以降はずっと晴天でラッキーでした。そもそもムーラメ滞在中に雨が降ってしまったら、私のアアルト建築巡りプランは一体どうなっていたんだろうか(笑)

ムーラメの市街地まで戻ってきたので、ついでにHalpaHalli(ハルパハッリ)というスーパーマーケットに立ち寄り少し買い出し。HalpaHalliはヘルシンキなどフィンランドの南部にはないスーパーで、2013年にセイナヨキで初めて訪れて以来2度目。ロゴがリニューアルしてお洒落になっていたのが、この旅の中でも上位でびっくりしたことだったかも。

スーパーの入り口でアイスクリームを食べていたら、ホストのメルヤから「アリがそろそろ自転車を使いたいみたいなんだけど、今どのあたり?」とメッセージがきたので、超特急で戻り無事に自転車を返却。一息ついてからシャワーを浴びに行こうとしたら、メルヤがせっかくだから湖で泳いでおいでよ、と。シャワー小屋から湖まではボーボーの草むらを掻き分けて行かないといけないし、水も決して透き通っているわけでもないので、一瞬躊躇したけれど、なかなか経験できることでもないので、荷物に一応入れて持ってきていた水着を着て、いざ湖へ!長い間泳いでいないし、足がつかない場所まで行くのは怖くて肩まで水に浸かる程度までしか入れなかったけれど、目線を水面に合わせて見る景色は、すごく美しくて壮大で、まるでそこには自分しかいない様な、今まで味わったことのない不思議な感覚が静かに押し寄せてきました。フィンランドの偉大なデザイナーたちは、きっとこういう景色を見て育ったんだろうなあ。