今回の旅は、計画当初からヘルシンキだけでなく別の都市へも足を伸ばそうと決めていました。最初はフィンランドの西側ノールマルックにあるマイレア邸を見に行きたくてヘルシンキからトゥルクを経由しポリへ向かうルートを検討していたのですが、Airbnbで宿泊先を探している時に偶然見つけたムーラメというヘルシンキから北へ270km程の場所にある小さなコテージに一目惚れ。このエリアにはアアルトの初期建築ムーラメ教会、隣町のユヴァスキュラにはセイナッツァロの村役場とムーラッツァロの実験住宅があるので、それらを見に行くプランに大きく変更。そして、せっかくフィンランド中央部に行くんだからと、2009年に初めてフィンランドを旅行した時以来、14年ぶりのタンペレにも立ち寄ることにしました。
タンペレとムーラメ合わせて3泊の小旅行。大きなスーツケースを持っていくのは嫌だなあと、ヘルシンキで数日間荷物を預けられる場所を探していたら、心優しい友人が預かってあげるよと声をかけてくれたので、お言葉に甘え出発日の朝一で荷物を預け、そのまま中央駅へ。電車の時間まで余裕があったので、駅構内のロバーツコーヒーで時間を潰すことにしました。レジ前に並んでいたヴォイシルマプッラとカフェラテを注文したら、店員さんが「ちょうど今焼き上がったから、そっち持ってくるね」と焼きたてを出してくれました。熱々のプッラを頬張りながらタンペレのことを少し調べたりしていたら、いつの間にやら出発の時間。ホームへ急ぎます。
ヘルシンキからタンペレまでは電車で約1時間半。今回の旅では初めてVR(フィンランド鉄道)アプリというものを使ってみたのですが、これがものすごく便利でした。VRはチケットの購入時期や電車の指定時間によって価格が変動するので、予めお得なチケットを探して予約しておけるし、当日もそのまま電車に乗って車内で車掌さんにアプリの画面を見せるだけでOK。この時のチケットは大体1ヶ月前に購入して、5.9ユーロでした。
タンペレではムーミン美術館に行ったり、ピューニッキ展望台でムンッキを食べたりしようかなあなんて思っていたのですが、前日に宿泊先のホストから、明日はガーデンパーティーがあって16時から友達のバンドが来るので、演奏が始まる前か遅めの時間に来れる?と聞かれたので、ガーデンパーティー?バンド演奏??と思いながら15時過ぎには到着できるプランを再考。サルカンニエミにあるサラ・ヒルデン美術館だけ行って、すぐにホスト宅へ向かうことにしました。
フィンランドに着いてからというものの、ずっと曇り空で肌寒い日が続いていたのですが、この日は晴天。グーグルのお勧めはバスルートだったけど、せっかくなのでトラムに乗って少し遠回りしていくことにしました。トラムを降り、ナビに従い歩いていると見えてきたのはサルカンニエミ遊園地。実は目的地のサラ・ヒルデン美術館はこの遊園地の敷地内にあったのです。そんなことにはしばらく気づかず、家族連れで賑わうエリアがしばらく続いたので、本当にこの先に美術館なんてあるのかと少し不安に思ったのですが、看板が見えて一安心。
サラ・ヒルデン美術館はタンペレしの実業家であったサラ・ヒルデンのコレクションを収蔵、展示するために作られたそうで、2022年にはブラッドピットが彫刻作品を展示したことが話題になっていました。この時の企画展は、サラ・ヒルデン財団のコレクションから選ばれた空間をテーマにしたもの。1階は主に絵などの平面作品、地下には立体作品が展示されていて、上階と下階で空間の作り方がかなり違うのが印象的でした。
展示を見終わったあと忘れずに立ち寄って欲しいのが、館内にあるカフェ、サラ。店内にはカイピアイネンの絵皿やルート・ブリュックの陶板が飾ってあり、テーブルやチェアはアールト。フィンランドデザイン好きにはたまらない空間なのです。ショーケースに並ぶサンドウィッチやケーキはどれも美味しそうで、何にしようか悩んでいたら、ここでプチ事件発生。私の前に注文していた人が、レジカウンターの隙間にクレジットカードを落としてしまったのです。とりあえず先にどうぞ、と言われたので、コーヒーとブリタカックを注文して席につき様子を見守ることにしました。「こんなこと初めてだよ〜」なんて言いながら店員さんが電ドリを持ってきたので、そのままパネルを外すのかと思いきや、カードを落とした人の旦那さんらしき人にドリルを手渡し、彼が作業し始めるという日本ではなかなか見ない光景にちょっとびっくり。無事救出され、また棚を元に戻していました。よかった〜と胸を撫で下ろし、私もデザートタイムに。注文したブリタカックはスポンジの上にメレンゲを乗せて焼き上げるケーキ。実はフィンランドで食べたことがなかったので、ずっと試してみたかったスウィーツでした。カフェ・サラのものはスポンジもメレンゲも薄めで間のクリームも軽くてすごく美味しかったし、飾り付けもすごく可愛いかった。また今度、自分でも作ってみよう。
バスでタンペレ駅へ戻り、コインロッカーに預けていた荷物をピックアップして、宿泊先へ。20分ほどバスに揺られて指定の停留所で降りると、周りは大きな家ばかり。完全な住宅街なので、ホスト宅を見つけるのも一苦労でした。なんとかそれらしき家を見つけ、インターホンを押したものの誰も出てこない。玄関には"TERVETULOA(ようこそ)"と書かれた黒板が立っていて、敷地内には沢山の人で賑わっています。とりあえず近くにいた人にホストがどこにいるか尋ねてみたら、多分庭にいるよ、と言われたので勝手にお邪魔してホストを探す。Airbnbのプロフィール写真と似た雰囲気の人がいたので、勇気を出し声をかけてみたらビンゴ!よかった〜。挨拶をした後、部屋へ案内してくれました。普段は子供が使っている部屋を空けてくれたようです。パーティーのためにケーキを焼いたから良ければ食べに来てと言われたので、荷物を置いて再び庭へ。
予約した時は気づかなかったけど、家より大きな庭があるお宅で(家も大豪邸)、時々オープンガーデンをしているらしい。家の前には小さなテラスがあって、そこではキャロットケーキとルバーブケーキがそれぞれ3ユーロ、コーヒー、紅茶は2ユーロで提供されていました。ついさっきブリタカックを食べたばかりだけど、手作りと言っていたので絶対食べたい…!どちらのケーキがオススメ?とホストに聞いたら、近くに座っていた女性が今の季節ならルバーブケーキでしょと推してくれたのそちらに。ケーキの横に準備されていたバニラクリームをたっぷりかけていただきます。当たり前のようにケーキもクリームもベジタリアンとノーマルタイプが用意されているのは、流石フィンランド。ケーキを食べながら一緒に座っていた女性たちと少しお喋りしている間に16時になり、バンドの演奏が始まりました。ギター、サックス、フルート、パーカッションのセッション。すごく素敵でした。フィンランドにいると音楽がいつもより身近に感じるので不思議に思っていましたが、こういった小さな演奏会とよく出くわすのが理由なのかもしれません。
一時間くらいで演奏会が終わり、散歩がてらスーパーへ。晩ご飯を買って戻るとテラスでホストとバンドメンバーがご飯を食べていたので、電子レンジを使っていいか尋ねたら、「え?一緒にスープ食べようよ。キッチンにパンもあるから持っておいで〜」と嬉しいお声がけをしてもらう。バンドメンバーの子が作ったというレンズ豆のスープとパンの夕食は、なんだかすごくフィンランドを感じる味で、彼らの会話は早すぎて全然分からなかったけど、良い時間を過ごさせてもらいました。食事を済ませテラスのベンチでぼんやり庭を眺めていたら、シャンパンもご馳走になってしまったので、せめてものお礼にと日本から持ってきたアルフォートをプレゼント。抹茶が特に嬉しかったらしく、翌日リビングの棚の上に飾ってくれていました。ホストは日本の文化に興味があるようで、庭には日本庭園をイメージした場所があったり、桜の木も植えてあって春には花見をしたり、浴衣をきたこともあると話してくれました。少し疲れたので部屋に戻って休んでいたら、サウナを温めたから10分後に入れるよ〜と声をかけてくれ、思わぬところでまたサウナに入れてとってもハッピー。Airbnbで散々な目にあったこともあるけれど、こういう素敵なことが起こるからホテルより断然楽しいんだよね。
Sara Hildén Art Museum
Laiturikatu 13, 33230 Tampere