フィンランドの夏の1日は長い。7月になると朝4時過ぎに外はもう明るく、22時半頃から段々と薄暗くなっていきます。午後から出かけたとしても遊ぶ時間はたっぷりあって、ついつい暗くなるまで外で過ごしたくなるのです。この日も昼からの約束を終えアパートに戻り、少し休憩してから友人がお勧めしてくれたディドリクセンミュージアムへ向かいました。ヘルシンキの西側にあるクーシサーリという小さな島にある私邸美術館です。島といっても橋でつながっているので、滞在先のアパートからはバス一本で行くことができます。
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もともとディドリクセン夫妻の邸宅だったという建物は美術館にしてはとても小さな作り。この時期は彼らのホームコレクションの展示をしていました。一階と地下にある作品を観賞した後、外に出たら、建物の裏手に海が見えたので行ってみることに。白樺の木が植えられた庭の小道を抜けると小さな桟橋があって、その先まで行くと、見えるのは海と木々と空だけ。周りに人はほとんどいなくて、橋が揺れる音と鳥の鳴き声くらいしか聞こえてきません。桟橋の上のベンチに腰をかけ、キラキラと光る水面をしばらく眺めて過ごしました。日本での日々は目まぐるしくて、こんなに何もない時間を過ごすことなんて皆無に近いけど、フィンランドに来るとなぜかそれができてしまう。休暇中だからなのか、それともフィンランドという環境がそうさせるんだろうか。
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そんなこんなで、気がついたらあっという間に17時前。このまま更に西に向かい、EMMA(エスポー現代美術館)に立ち寄るかどうか迷いましたが、行きと同じバス一本で美術館の最寄りであるタピオラ駅まで行けるし、金曜日は18時から入館無料ということで足を運ぶことにしました。この日に乗った510バスは中央駅の東側、マリメッコのアウトレットがあるヘルットニエミからエスポーのキヴェンラハティの間を走る路線です。滞在しているソルナイネンからクーシサーリへ行く途中には、再開発で様変わりしたパシラ駅や昔通っていた語学学校があるメイラハティエリア、タピオラへの道すがらにはアアルト大学オタ二エミキャンパスなどを窓から眺めることができて、観光バスに乗っている気分でした。そういえば、通常ヘルシンキでバスに乗り込む時は運転手の方にチケット(HSLアプリから購入している場合はスマホ画面)を見せるのですが、510路線ではいつも誰も見せていない。なんでだろう。気になるから誰かに聞いてみればよかった。
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ヘルシンキの隣町エスポーあるEMMAはフィンランドでお気に入りの美術館の一つ。ヘルシンキからはバスだけでなく地下鉄でも行くことができるタピオラというエリアにあります。その昔、タピオラに行く手段はバスしかなくて、今みたいにどこでもGoogleマップが使えるわけでもなく、しかも車内では停留所のアナウンスすらないという状況で怯えながら何度も乗車した、なんていう記憶も今となってはなんだか懐かしいです。地下鉄の駅ができて随分と便利になりました。駅直結のアイノアショッピングモールを抜けて外へ出ると、集合住宅のエリアがあって、そこにはFidaというセカンドハンドショップがあります。タピオラ駅から美術館への通り道なので、つい立ち寄ってしまう店舗です。この日は、アラビアのビンテージマグを5ユーロでゲット。
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セカンドハンドショップから10分ほど歩くと見えてくるEMMA。中に入りエントランスを抜けてすぐのエリアでは、コレクション・カッコネンという展示がされていました。カッコネンは、実業家であり美術品蒐集家で、日本で行われるフィンランドデザイン展にもよく貸出をしている人物です。2013年に開催された「森と湖の国 フィンランド・デザイン」を大阪の東洋陶磁美術館で見た時、Kyöski Kakkonen蔵があまりにも多く、その時はこの人一体何者なんだろう?と思っていたのですが、その後、今の会社の上司から、その界隈ではとても有名なコレクターだと教えてもらいました。コレクション・カッコネンの展示はフィンランドデザイン好きには堪らない作品ばかりだったので、立ち寄って本当によかった。特にカイピアイネンの絵皿のルート・ブリュックの陶板がずらりと並んだ壁は圧巻でした。2階では企画展やルート・ブリュックとタピオ・ウィルカラのコレクションも見ることができます。たっぷりと展示を楽しみ、閉館ギリギリでしたが、館内のカフェで休憩をしてから帰路に。
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帰り道はバスではなく地下鉄で。タピオラからソルナイネンまで一本で行けるのでとても便利です。
Didrichsen Art Museum
Kuusilahdenkuja 1, Helsinki
Espoo Museum of Modern Art
Ahertajantie 5, Tapiola Espoo